東京の味覚を支える鉄人たちをご紹介。
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| TEXT : Cheryl White / PHOTO : JOE M500 / TRANSLATION : Azusa Tanaka Category : GOURMET TRIVIA |
2010.03.24
分子ガストロノミー運動は、物理学者であるニコラス・クルティーと、物理化学者のエルヴェ・ティスの2人のコラボレーションによって育まれた。1990年代初頭、このコラボレーションは、分子ガストロノミー(分子美食学)という新しい学問をもたらしたのだ。今では料理界のあらゆるところでその成功例を見ることができる。その考えに賛同するシェフたちは一貫して、世界をリードするとして支持され、彼らのレストランは大勢のファンたちのメッカとなり、彼らの料理本はミリオンセラーとなる。
しかしもっともその分野と密接だった人たちから、分子ガストロノミーという用語への興味が全く失われていった。その運動で、もっとも影響力のあるシェフやフードライターたち、中でもフェラン・アドリア(エル・ブリ)、ヘストン・ブルメンタル(ザ・ファット・ダック)、そしてハロルド・マクギーが、最近の「新しい料理」に言及して、分子ガストロノミーという言葉は「センセーショナル」に扱われ、「広く誤解されてしまった」と指摘したのだ。今では明らかに、分子ガストロノミーは食材や食材の化学的で物理的な側面を、科学的に調査する際に適用されるだけだ。これらの調査から生み出された技術も料理も「分子料理」または「分子料理法」と分類するか、あるいは、急ごしらえの「新しい料理」にさえも及ばないと分類されるべきだろう。

では、何を騒いでいるのだろう?クリエイティブな視点から言えば、分子ガストロノミーとは、あまり意味のない用語だ。料理を組み合わせたり、香りを組み合わせたり、科学実験室でデザインされた器具を使ってみたり、といった科学的アプローチだ。それはクリエイティブなシェフに、料理の新しい道具と理論の手段を与えたが、この用語自身、クリエイティブなシェフの内なる才能が持つ独創的な考えや、情熱を映し出すことはないのである。科学を受け入れ科学を芸術にするのは、まさにこの才能なのだ。マクギーは、分子ガストロノミーを“美味しさの科学的研究”と見なし、なぜ素材が合わせられると美味しくなるのか、そして食品の物理的性質をどのように利用したら、新しい食事の喜びを創造できるのかを科学する研究だとした。
つまるところ、まさにそういうこと!?自分の才能と情熱を、素晴らしい味と満足が凝縮された一皿に注ぎこんだ達人によって使われた、精密な技術、テクニック、科学なのだ。分子ガストロノミーという呼び方は別として、科学的な原則は料理の基本となり、おかげで多くのアマチュア料理人は、失敗してしまったスフレ、ねばねばのメレンゲ、固まらないムースや黒こげのブリュレなどを前に、がく然としてしまうのだ。科学的な問題にもっと注意を払ってさえいれば、自尊心が踏みにじられることもなかったかもしれない。

原材料の性質やクセを知ることや、化学反応を試してみることが、料理や風味の変わった組み合わせを生み出している。分子ガストロノミーは、同じような揮発性の分子を持つ素材がお皿の上で一緒になったとき、味も香りもお互いに称賛しあう傾向があるということを、強調している。キャラメライズされたカリフラワーとチョコレート、サーモンと甘草、ジャスミンとポークレバーのような変わった組み合わせが、“新しい料理”においては必須になっている。これらの変わった組み合わせに加えて、変わった道具や器具を使うこともある。研究室の装備が、今やキッチンの装備になる。液体窒素が突然テーブルで使われることもある。それは瞬時にして料理を凍らせたり、食事する人をドラマティックに楽しませたりするのだ。真空パックとサーモスタットによる正確な温度計算は、味や色、食感などを濃縮させたり保ったりするのに役立つ。強烈に香る煙が、美味しいごちそうの容器から流れて、食事する人を魅了する。シェフは科学と芸術を指揮し、新しい味のシンフォニーを創造するのだ。
分子ガストロノミーは、いまだ健在だ。科学的アプローチは、それを支持するシェフの技術や創造力によってバランスが保たれている。美味しい料理を愛するすべての人たちにとっては、分子ガストロノミーはハッピーな出来事ではなく、ハッピーなエンディングなのだ。
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