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名越康子さんの「珠玉のワイナリー紀行」第3回

2009.08.27

名越康子さんの「珠玉のワイナリー紀行」第3回

ワインジャーナリスト名越康子さんによるイタリア・トスカーナのワイン紀行。第3回目はモンタルチーノのワイナリー「ポッジオ・ディ・ソット」「ピエーヴェ・サンタ・レスティテュータ」の2軒をご紹介します。

トスカーナ地方が誇る中世の都市、フィレンツェとシエナのちょうど間にあるワイン産地がキアンティ・クラッシコ地区。そして、シエナの南にある丘がモンタ ルチーノという名前。この丘での赤ワイン造りの歴史は、今でも続く「ビオンディ・サンティ」という蔵が「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」という名前の ワインを19世紀後半に世に出したこと始まる(それまでは甘口白ワイン造りが盛んで、今でも残っている)。

ポッジオ・ディ・ソットは小高い頂にあり、とても眺めがよい。このセラーに使ってある岩は、すべて畑から掘り出したもの。

PHOTO : Yasuko Nagoshi
ポッジオ・ディ・ソットは小高い頂にあり、とても眺めがよい。このセラーに使ってある岩は、すべて畑から掘り出したもの。

「ブルネッロ」は、トスカーナ地方全域で広く栽培されている「サンジョヴェーゼ」という品種(実は、イタリア全土でも栽培面積がとても多い品種)のこの土地での呼び方なのだが、ビオンディ・サンティ家によって優秀な株を長年選抜し続けて来た結果得られたもので、ブルネッロという名前は、「小粒で濃い色をし たもの」に由来している。

化学肥料は一切ナシ。手作業で、自然のままに熟成される、ピュアワインの真髄を知る

さて、キアンティ・クラッシコのバローネ・リカーゾリ1社のラインナップでも「伝統」タイプと「モダン」タイプの両者をご紹介したが、今ではここモンタルチーノの丘でもワイナリーによって、「伝統的」なタイプと「モダン」なタイプに分けられる。

これが昔ながらのスロベニアンオーク。この中でブルネッロは5年間静かな眠りにつく。

PHOTO : Yasuko Nagoshi
これが昔ながらのスロベニアンオーク。この中でブルネッロは5年間静かな眠りにつく。

「ポッ ジオ・ディ・ソット」は、ピエロ・パルムッチがそれまで生業としていたコンテナ・ビジネス(輸送業)を投げ打って'87年に始めたワイナリー。それほど古株ではないけれど、造りは極めて伝統的。そして、毎年とてもピュアなワインに仕上がる。その純粋性とは、ウイスキーのコマーシャルではないが「何も足さない、何も引かない」に似た考え方を突き詰めた結果の賜物だと感じている。ぶどうを栽培するにあたって、化学的なものは一切使用せず、すべて手作業で、量は 少なくても構わないから質の良いぶどうができるように世話をする。ぶどうが醸造所へ到着してからは、更なるぶどうの選別はするけれど、醗酵のために酵母を添加するわけでなく、温度のコントロールをするわけでなく、木製の醗酵槽とスロベニアン・オークの大きな樽の中で醗酵と熟成を行う。それから5年してようやく瓶に詰められるが、この時に清澄も濾過も一切しない。

こうして出来上がった2004年の「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」を試飲させてもらった。グラスに入れてしばらくは控えめだった香りが、時間と共に花開き、紫色の花、まさにスミレのような香りでいっぱいになっていった。口の中に入れても、もちろん若さで溢れているが、とてもなめらかで緻密で、バランス感覚が素晴らしい。普通なら「試飲」の時には味をみた後に吐き出すのだが(全部飲んでいると酔っぱらってしまうので)、このときばかりはゴクリ。自然に口の中にしみ入ってしまったというか…。

ちなみに、ご当主ピエロはフランス人から「まるでピノ・ノワールのよう(ブルゴーニュ地方で栽培されている品種)」と言われたと、嬉しそうに教えてくれた。確かにそういうニュアンスが感じられる赤ワインなのだった。

ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ2銘柄。右がいくつかの畑をブレンドした「レニーナ」。左が単一畑の「スガリーレ」。同じ年なら後者の方が複雑性と力強さが勝っている。

PHOTO : Yasuko Nagoshi
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ2銘柄。右がいくつかの畑をブレンドした「レニーナ」。左が単一畑の「スガリーレ」。同じ年なら後者の方が複雑性と力強さが勝っている。

ワイン界の鬼才、アンジェロ・ガイアが手掛ける、トスカーナワインの第2弾

では今度はモダンなタイプの「ピエーヴェ・サンタ・レスティテュータ」。ちょっと私たち日本人には呼びづらい名前なのが玉にきず。ここの当主はアンジェロ・ガイア。北イタリアのピエモンテ州で「バルバレスコ」(同じ州のバローロと同じく、ネッビオーロ種から造る赤ワイン)を世界中から注目の的にした辣腕 として知られている人物。実は彼はトスカーナ地方のボルゲリ地区にもワイナリーを構えていて、このモンタルチーノはトスカーナの第二弾で、いずれも素晴らしい評価を既に得ている。

ここは'94年に始まったプロジェクトで、最初の数年はブルネッロという品種の扱いが慣れなくて大変だったと、アンジェロから聞いたことがある。今回、少し古いヴィンテージも試飲させていただいて感じたのは、2000年以降にガイアらしさが徐々に表に出て来ているということ。天賦の才をもつ人物でも、その土地をものにするには時間がかかる、ということだろう。
さて、こちらがモダンだ、という大きな理由は造り方に由来するもので、グラスに注いですぐにわかるモダンの基準は色が濃いこと。伝統的なブルネッロが明るいルビー色なのに対して、モダンなブルネッロは黒みがかった濃い赤をしている。そして、香りにはバニラやカラメル系の香りが加わり、エレガントというよりも力強い凝縮感がより感じられる。

同じ「ブルネッロ」というぶどう品種でも、畑の場所によってももちろん個性が異なるが、ワイナリーの当主の考え方によって、出来上がるワインの性格がガラリと変わる。皆さんのお好みは、一体どちらなのだろう?

名越康子
なごしやすこ/ワイン輸入会社勤務を経て、ワインジャーナリストとして独立する。ワイン専門誌『ワイナート』(美術出版社)をはじめ、一般誌にも幅広く執筆。2005年にシャンパーニュ騎士団より「シュヴァリエ」の叙任を受ける。08年夏に、鳥取県の名産食材を扱う、イタリアンレストラン「オステリア・モンテマーレ・トットリーネ」をプロデュース。現在も執筆業と2足の草鞋で活躍中。