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| TEXT&PHOTO: Yasuko Nagoshi Category : ESSAY |
2009.08.05
ワインジャーナリスト名越康子さんによるイタリア・トスカーナのワイン紀行。第2回目は日本のワインファンにも馴染み深い“キアンティ・クラッシコ”の名門バローネ・リカーゾリ編をお届けします。
トスカーナで2番目に訪れたワイナリーは、キアンティ・クラッシコ地区の老舗「バローネ・リカーゾリ」。キアンティ(キャンティと呼ぶ人も)といえば、昔は フレスコ型のボトルに藁づとを巻いたものをよく見かけたけれど、「キアンティ」という地区よりも「キアンティ・クラッシコ」という地区のほうがワイン産地 としての歴史が長い。
そして、この「クラッシコ」地区もいくつかに分かれていて、最も古くからワイン造りが行われていた場所のひとつ、ガイオーレ・イン・キアンティに「バロー ネ・リカーゾリ」の拠点がある。カステッロ・ディ・ブローリオ=ブローリオ城がそれ。つまり、ここの当主は城主でもある、ということになる。

アメリカの「ファミリー・ビジネス」という雑誌の調査によると、少なくとも2世紀以上続いている会社で創設者の家族が現在もそのビジネスを担っている、という会社は世界に19社しかないらしい。そして! このリカーゾリ男爵家はその中でも4番目にランキングされるという古さ。ちなみにこの会社の創立は 1141年。こうなると、ますますもって敷居が高い・・・という気がするのだが、当主のフランチェスコ・リカーゾリは実はとてもソフトで律儀、そしてハッ キリとした性格の人物なのだ。
私はここ数年、毎年トスカーナを訪れていて、リカーゾリを初めて訪ねたのが3年前。その時、フランチェスコは不在だった。2年前、キアンティ・クラッシコ のワインが一同に会して試飲できる会場で、彼を見つけて質問をした。ところが横やりが入ってしまった。「5分待ってて、ここに帰って来るから」そう言い残 して去ったけれど、イタリア人のことだから、どうだろう? そう思いながら5分後にその場へ戻ると、いるではないか!? 昨年は、試飲会場で見つけられず、彼の会社のスタッフに質問を投げかけて帰った。すると今度は、ご本人から返事のメールが・・・。正直言って、驚きの連続(こんな律儀な男爵、いらっしゃるんですね)。
さて、実はフランチェスコは一度ワイン・ビジネスから離れて、プロの写真家として活動していた時期がある。当時、世界的な大手シーグラム社が「リカーゾリ」のブランド名を購入してワインを造ることになったが、大量生産の方向へ進んだためブランド・イメージは落ちる一方になってしまった。そこで、93年に 彼が帰還して立て直しを計ることになった。それから早15年。ブローリオ城の周辺をはじめとして合計で250ヘクタールという広大な自社畑の90%、を徐々に改植し続けてようやく完了したところ。「まず、キアンティ・クラッシコ地区のリーダーという存在にもどること。これが私の第一の使命だから」。一言でいえばこういうことになるが、実際には山のような仕事をじっくり忍耐強く続けてきているのだった。

ここリカーゾリ家で造っているワインは、白、ロゼ、赤、甘口白、グラッパといくつも種類があるけれど、フラッグシップはお城の名前を冠した「カステッロ・ ディ・ブローリオ」という名のキアンティ・クラッシコと、モダンな装いの「カザルフェッロ」。いずれも秀逸な味わいの赤ワイン。このふたつのワインの大きな違いは、「ブローリオ」が「キアンティ・クラッシコ」という伝統の枠内で最高の赤ワインを造る、という方向性に対して、「カザルフェッロ」は、「トスカーナI.G.T.(アイ・ジー・ティー)」といってトスカーナ地方の土地柄が反映されていればある程度自由な裁量で造ってもよい、という範囲での最高峰を目指している赤ワイン、ということ。
例えば、同じ2006年を比べてみると、「ブローリオ」はエレガンスがありながら芯が強くて厚みのある、きっちりとしたタイプなのに対して、「カザルフェッロ」は花やフルーツの香りがより華やかで、上品で且つまろやかさのある充実した味わい。前者が三つ揃えのスーツにネクタイ姿の紳士なら、後者はノーネクタ イでワイシャツのボタンをふたつみっつはずした感じのナイスガイ、といったところだろうか? いずれにせよ、どちらかを選びなさい、と言われれば迷ってしまうにちがいない。
現時点でどちらもとても完成度が高い出来ながら、植え替えたぶどうの樹齢が上がるにつれて今後確実に品質が高くなることは明らかで、更に「醸造設備は、ようやくこれから手を入れられる段階」という。フランチェスコのリカーゾリ復活計画の軌跡を、ずっと追いかけていきたい気持ちになった。
名越康子
なごしやすこ/ワイン輸入会社勤務を経て、ワインジャーナリストとして独立する。ワイン専門誌『ワイナート』(美術出版社)をはじめ、一般誌にも幅広く執筆。2005年にシャンパーニュ騎士団より「シュヴァリエ」の叙任を受ける。08年夏に、鳥取県の名産食材を扱う、イタリアンレストラン「オステリア・モンテマーレ・トットリーネ」をプロデュース。現在も執筆業と2足の草鞋で活躍中。
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