![]()

| TEXT&PHOTO: Yasuko Nagoshi Category : ESSAY |
2009.07.07
ワインとワイン造りに携わる”人”を取材し続ける、ワインジャーナリストの名越康子さん。今回、2月に開催されたイタリア・トスカーナ地方の試飲会に合わせて、個性豊かなワイナリーを訪れました。各ワイナリー独自の製法や醸造家たちの想い、現地に足を運んだからこそ感じられる、それぞれのワインのストーリー。そんな「豊潤なワインの旅」を全4回に分けて配信します。第1回目は「オルネッライア」を生み出すワイナリー、「テヌータ・デッロルネライア」から
イタリアのトスカーナ地方には、魅力的なものがたくさんある。フィレンツェの花の大聖堂は何度見ても飽きないし、ウフィッツィーをはじめとする美術館には何日掛けても見尽くせないほどの絵画や彫刻が。和紙に通じるものを感じる素敵なデザインの手すきの紙や、ついつい手を伸ばしてしまう小物類やアクセサリーも。そして、美味しいワインや料理もトスカーナに欠かせない存在のひとつだろう。

人それぞれに歴史があるように、ワインにもそれぞれのストーリーがある。今回トスカーナで最初に訪問したワイナリー「テヌータ・デッロルネライア」は結構波瀾万丈な人生(?)を送ってきているのだった。このワイナリーがある「ボルゲリ」という地区は、フィレンツェから車でおよそ1時間ほどの海岸近くにある。昔はワイン産地というよりは野菜の栽培や馬の飼育のほうが盛んだった場所なのだが、「オルネッライア」や「サッシカイア」などの登場で、今では数多くのワイナリーがひしめき合っている。
さて、「テヌータ・デッロルネライア」が設立されたのは1981年のこと。フィレンツェの有名な侯爵家のひとつ、アンティノリ家(アンティノリが造る数々のワインも世界的に有名で、フィレンツェにトラットリアもある)の子息、ロドヴィコがボルドー系のぶどう品種(カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルド)でモダンなワイン造りを始めた。フラッグシップの「オルネッライア」はリリースされるとすぐさま評価を得て、更にトップ・キュヴェ的な存在の単一畑の単一品種メルロから生まれる「マッセート」は、希少価値も伴って市場での価格はうなぎ上り。
ところが2002年になって、ロドヴィコがこのワイナリーを手放すことになった。売り先は1999年から出資していたカリフォルニアのロバート・モンダヴィ。そして、当時モンダヴィとジョイント・ベンチャーをしていたトスカーナのフレスコバルディ侯爵家も共同経営者に加わった。ところが、今度は2004年にモンダヴィがコンスタレーションという大手に買収されてしまう(モンダヴィ・ブランド名は残っているけれど、モンダヴィ家の人は現在関わりがない)。その後、2005年からフレスコバルディ家が100%オーナーになった、ということ。つまり、フィレンツェの侯爵家から侯爵家へ、・・・ロドヴィコにとっては意図せずそういうくだりになったのはショッキングな出来事だったようす。とはいえ、ここのワインの品質は変わらないどころか毎年進化を続けていて、中で働くスタッフたちのプロ魂が感じられる。

このボルゲリという地区は、小高い丘に登ると肉眼でも海が眺められるほどの位置にある。通常、海寄りにある場所は内陸部より温暖でぶどうがよく成熟する。ただ、オルネッライアが所有する丘の上の畑「ベライア」に行くと、海からとてもすがすがしい風が常に吹き続けていることに気がついた(ベライア=Beautiful Air。まさに!)。これによってぶどうはゆっくりゆっくりと熟していくことになる。丁寧に選別されながら手摘みされたぶどうたちは、ワイナリーに運ばれてからまた更に選別され、醗酵して熟成して・・・。実にきめ細やかな配慮のもとで1本1本が出来上がっていく。
例えば2006年ヴィンテージの「オルネッライア」。紫色の花、カラメル、カシスといった香りが少しずつ開きはじめ、とてもかっちりとした力強い味わい。完成度が高いけれど、まだ何年も置いておきたい、という印象が残る。加えて、年間にたったの1000本前後しかできない「マッセート」は、「ベライア」とは別の丘にある小さな小さな畑だった。斜面に段々畑のようにメルロ品種のぶどうが植えられていた。同じく2006年の「マッセート」を味見させてもらうと、今度はブルーベリー、チェリー、カラメルなどのふっくらとした香りで、まろやかさときめ細やかな弾力のあるような触感がなんとも素晴らしい。
醸造家のアクセル・ハインツ曰く「2006年は、ぶどうがとてもよく熟した年で、地中海的な力強さを感じていただけると思います」。では、次のヴィンテージは?「今朝、ちょうどコンサルタントのミシェル・ロランとブレンドしたところなんですが、2006年とは随分ちがいます。2004年に少し似ているけれど、より凝縮している。それに、エレガントでピュア、そしてとてもシルキーなタンニンですね」。
こうして、毎年少しずつ異なる個性のワインを生み育てていくのだから、興味は尽きないにちがいない。願わくば、今度また食卓で出会いたいワインたちだ。
名越康子
なごしやすこ/ワイン輸入会社勤務を経て、ワインジャーナリストとして独立する。ワイン専門誌『ワイナート』(美術出版社)をはじめ、一般誌にも幅広く執筆。2005年にシャンパーニュ騎士団より「シュヴァリエ」の叙任を受ける。08年夏に、鳥取県の名産食材を扱う、イタリアンレストラン「オステリア・モンテマーレ・トットリーネ」をプロデュース。現在も執筆業と2足の草鞋で活躍中。
|
|