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| TEXT : Cheryl White / TRANSLATION : Azusa Tanaka / Category : ESSAY | |
2011.04.22
シャトー・ラフィットのじりじりと焼けた砂利道と大理石の中庭をはなれ、地下のセラーへ続く控え室に入ると、ほっとした。石の壁の冷えた部屋が、調和のとれた実用的な姿をあらわすと、外の暑さはたちまち忘れさられた。さまざまな種類のブドウ畑の地図、ラフィットの魔法の土壌の組成が見えるガラス壷、そして部屋の隅には、暗闇へおりていく石畳の階段が続く。
実際、私たちがボルドーで訪ねたセラーの中でも、そこはもっとも暗く、もっとも土のにおいがした。カビで黒くなった壁を、“洗い落とす意味なんてあるの?”シャトーのテクニカルディレクター(最高醸造責任者)であるシャルル・シュヴァリエ氏は、私たちにそう問いかけた。“明日になればまた黒くなってしまうだろうし、まあ、これもセラーの自然の姿なんだよ。”狭くアーチ状の廊下の脇には、施錠された門のある大きな貯蔵庫があり、その中にはホコリのかぶったラフィットワインが重ねられていた。ここは寒くて暗い。数メートルごとに、電気のシャンデリアが下がり、行き先をほのかに照らしてくれる。土のにおいと湿気は私たちの歩みを前へと進めさせ、ようやくセラーを出てバレルルームのひとつにたどり着いた。ここに貯蔵されている膨大な量のワインには、気が遠くなった。1年目、2年目(ふつうワインは新しいオーク樽の中で最大20ヶ月熟成される)のための貯蔵部屋があり、最後は3つ目のバレルルームに移されることになる。
想像もつかない光景だった。ここは広大な円天井のホールで、働く人たちが巨大な樽を動かす音が響きわたり、大きな音が壁に反響していた。2400を超える樽がここで保存されている。ここはボトリングされる前の最後の部屋。そして5つの矢を持つ力強いラフィットの盾が、壁や床や天井などあちこちに飾られていた。坂道をのぼっていくとこの巨大な倉庫の出口につながり、ふたたび暑い日常に、とてつもなく青い空とブドウ畑に出るのだ。
世界でもっともエレガントなワイン。その秘密とは…。
シュヴァリエ氏は、砂のような白い砂利を手ですくいあげ、それをまた土に戻した。“土壌が貧しければ貧しいほど、オーナーは豊かになる。”彼はそう言う。土壌は本当に貧しく、乾いてホコリっぽく見えた。しかし、この砂利まじりのごつごつした土壌は、ブドウにとっても最上の友なのだ。 ブドウは水分を求めて8m以上その根を地中に伸ばす。そしてこの緩い土壌のおかげで、根が伸びるだけでなく最適な排水を保てることを、シュヴァリエ氏は説明してくれた。“我々はこの土壌について配慮しなければならない。”彼は付け加えて言った。“我々は、土壌を動かすことも替えることもできないのだから。”
ラフィットには、それを動かすまたは替える必要もないでしょうが・・・私たちはシャトー・ラフィットのテイスティングルームに戻り、ラフィット・ロートシルトの1994年、1995年、2009年を試飲した。これらのヴィンテージは世界のもっともエレガントなワインと見なされているが、そのとおりすべて素晴らしい実例となっていた。仕事と伝統へのプロフェッショナルな取り組み方を目の当たりにすることができただけでなく、この個性的で素晴らしいワインを試飲する機会を持てたという栄誉を感じつつ、私たちはシャトー・ラフィットをあとにしたのだった。
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