
PHOTO : geishaboy500
懐かしい、マイ・ブランド。
幼少時よりファッションデザイナーを目指していた高橋理子さん。学生時代に手掛けたインディーズブランドの名前はocep(オー・シー・ピー)。ご本人の笑顔がかの洋菓子店の看板娘pecoちゃんに似ている(!)というのが由来だそう。
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2010.08.31
思わず手にとってしまう、ポップでカラフルな図柄の手ぬぐい。その手ぬぐいを切らずに仕立てた“スリーブバッグ”etc…。アーティスト・高橋理子(ひろこ)さんが生み出す作品は、大胆な魅力に溢れ、それらはすべて「円と直線」という最低限の要素で構成されています。幼い頃からファッションデザイナーを目指し、東京藝術大学にて美術の博士号を取得。工芸、ファッション、アートなど、ジャンルにとらわれず様々なプロダクトを手がける、非凡でストイックな経歴と作品への想いをお伺いしました。

PHOTO : Taku Kasuya
手元に見えるのは、この夏コラボレートした家田紙工の水うちわ。「正円と直線の柄は、古典柄に多く見られる花鳥風月の有機的な柄に比べて粗が目立ちやすい」(高橋さん)。職人にとっても手の抜けない仕事になるが、各地からのオファーは絶えない。
ファッションデザイナーを目指して、専科の高校へ。そこで大学進学を決意し、高校3年の春、松葉杖で美大予備校に通っていました
―幼い頃からファッションに興味を持たれていたようですが、どなたかの影響ですか?
〝祖母が洋裁、母が編み物が得意で、父は左官職人。ものを作ることが当たり前の環境でした。小学校1年生の時に、テレビで観たパリコレで「こんなふうに人を美しく見せる服を私も作りたい!」と思って。ファッションデザイナーになるって周囲に言い続けて、揺るがずそのためだけに生きてきた感じです〟
―ずいぶん早いご決断ですね! 高校も、服飾の専科に進まれたんですよね?
〝中学1年生の時に、尊敬する先輩が進学して、もうその高校しか行きたくないと思っていました。私に影響を与えてくれる人が常に周りにいて、東京藝術大学への進学をすすめてくれたのも、高校の先生。高校一年生の頃は、専門学校に進もうと思っていました。でも、ある日先生に「あなたは大学に行きなさい」と言われて。実は私、そのときまで大学の存在をよく知らなかったんです。「大学で染織を学べば、生地から自分の好きなものを作れるから」と聞いて、大学に行きたい!と即決しました〟
―猛勉強をされたと聞いていますが。
〝当時、熱血な柔道部員だったので、美大の予備校に通えなかったんですが、3年生の春の試合でじん帯を切ってドクターストップがかかったのが転機でしたね。部活を辞めて、松葉杖で予備校に通って、ギプスをしているからデッサンの低い椅子に座れなかったのが辛かったです。受験勉強は、先生に授業とは別の参考書を用意してもらって職員室に入り浸り。休み時間は耳栓をして勉強していました〟
―現役で入学されたんですよね。大学と大学院で学ばれた6年間はどうでしたか?
〝今の私の表現媒体のひとつである着物に出会ったのが藝大です。工芸科では日本の伝統工芸の技術を学ぶのですが、染織専攻での参考資料はすべて着物だったんです。卒業制作では、着物を2点作って発表しました。日本の伝統染織技法でドレスを作るというのも考えましたが、それでは安易な気がして、まずは純粋に着物を作ろうと思ったんです。学生時代、大学以外の時間はファッションに関することをしたくて、自宅では洋服作りをしていました。専門学校の学生とファッションショーを企画したり、インディーズブランドを立ち上げて、自分でコートを100着縫ったり、Tシャツを100枚プリントして、全国に卸していましたね〟
―当時からモチーフは「円と直線」だったんですか?
〝以前から、泡と泡がくっついてつぶれて多角形になるあの感じが好きで、絵のモチーフによく使っていました。4年生の時に、自分で貯めたお金でピンク色のスケルトンのiMacを買ったんです。正円の繰り返しが簡単にできて、色を正確に均一に塗ることができる。なんて私にぴったりの道具だろう!って思いました。Macがなければ、今の私の柄は生まれてこないし、この時代だからこそできることをやっている実感がありますね〟
―円と線以外のモチーフには挑戦しないのですか?
〝世の中にあるもののほとんどは、円の弧とほんの短い線のつながりで構成されていると思うんです。そう考えると、私がこだわる円と直線を「最低限の要素」と言っても間違いではないし、これ以上のものはないと思っています〟
生きていること全部が、私の表現。100年後に「伝統」といわれるものを、今この瞬間に生み出したい―
―日本の伝統工芸の職人さんたちとお仕事をされていますが、現在どれくらいの数のプロダクトを発表されていますか?
〝アトリエの8メートルのデスクに並ばないくらいあります。注染という伝統技法で染め上げた手ぬぐいだけでも60種以上。浴衣も種類がたくさんありますが、照明やタオル、食器などのリビングアイテム、レザーのウォレットやポーチもありますね。HIROCOLEDGEオリジナルのもの作り以外に、老舗のメーカーさんとの協業も増えています〟
―最近話題のステテコのデザインもされていますね。
〝機能のことだけを考えれば白いステテコで十分なのですが、これまで興味のなかった人に「何だこれ?」って近づいてきてもらうためのデザインだと考えています。蝶に花粉を運んでもらうために花の色が派手なのと同じですね。ただ美しいもの、かわいいものを大量に売るのではなく、その素材や技術、歴史や存在そのものを知ってもらうためのきっかけになればいいと思っています。私の柄が必要な時、その意義を考えてデザインしています〟

PHOTO : Taku Kasuya
アトリエに飾られた、高橋理子さんデザインのクッションカバー。「和を意識してデザインすることはないのですが、海外の方からは、和柄ですか?とよく聞かれるんです。そんなとき、やっぱり私は日本人なんだと実感しますね」(高橋さん)
―職人的なものづくりと、高橋さんの柄はすごくいいハーモニーですね。
〝日本には装飾するための技法がたくさんあります。その技術があるからこそ、柄が施せる。でも逆に、柄がなければ、その技術は必要なくなってしまいます。新しい柄が出てこなければ、そういう技法って発展しないんですよね。私の柄があったからこれまでと違う方法に挑戦できたと言ってくださる職人さんがいると、今やっていることもムダではないんだと実感できて嬉しいですね〟
―そこにはやはり、「伝えたい」という想いが?
〝作る人の顔が見たいし、その人の存在もしっかり伝えていきたいので、工場には必ず足を運びます。自分の知識や理解度が浅い状態では、職人さんと対等な立場でもの作りはできませんからね。大学院に進んだのも自分に知識が足りないと思ったからですし、卒業後に1年間、アパレルメーカーに勤めたのも、大量生産や流通の仕組みを勉強したいと思って。中途半端は嫌なんです。時間もかかるし、遠回りなんですけどね〟
―今年の7月、JR秋葉原駅と御徒町駅間の高架下に、新しいアトリエを構えられましたね。アルチザンをテーマにした、複合施設になるようですが。
〝この界隈には、もの作りをする職人さんたちがたくさんいて、身近な場所でもの作りができる心地よさがあります。人通りが多いわけでもなく、地味な場所ですが、だからこそ、本質を見てもらえるのだと思っています〟
―どんな場所にしていきたいですか?
〝この場所は「TAKAHASHI HIROKO BASE」と名付けています。私の発信基地ですね。私のアトリエであり、ギャラリーでもあり、株式会社ヒロコレッジの事務所であり、HIROCOLEDGEのショップでもあります。すべてが私の活動であり、表現でもあるので、ショップだけが別の場所にあるというのは考えられません。ここに来てくださった方に、自分の言葉で様々なことを伝えることが最も重要なんです。手ぬぐいを一枚一枚たたんでいることでさえ、とても大切な行為ですし、すべてを見てもらいたいんです。私が生み出すものを介して、多くの人が交わる場所になったら嬉しいですね〟
―なるほど! ではこれから、挑戦したいことはありますか?
〝今、教育にすごく関心があるんです。小学生向けのワークショップをやったり、大学や高校の講義に呼ばれることもあるのですが、これからの時代を担う子供たちに、ものごとを考えるきっかけをたくさん与えたいと強く思っています。この活動を通して、伝統や和ということに対する考え方や価値の捉え方に対する固定観念の存在を強く感じているので、それを打ち砕くきっかけを生み出したいんです。例えば、今伝統と言われるものも、生まれた瞬間があり、人々になかなか受け入れてもらえなかった時期もあったはず。当たり前のことですが、伝統という言葉が安易に使われすぎていて、これについて考える人は少ない。私は、100年後に伝統といわれるものを、今この時代から生み出していきたいと思って活動しています。この言葉を発することも、私の表現であり、実験なんですね。ほんの小さなきっかけが、本質を自ら考えることにつながると信じています。〟
高橋理子(たかはしひろこ)
1977年生まれ。埼玉県立新座総合技術高校・服飾デザイン科で服作りの基礎を学び、東京藝術大学に進学、染織を学ぶ。同大学大学院修士課程修了後、アパレル企業にてデザイナーとして勤務。その後、同大学大学院博士課程に再入学。2005年に仏外務省の招聘により、パリにて活動。帰国後の2006年、株式会社ヒロコレッジを設立。2008年3月、同大大学大学院博士課程を修了し、博士号(美術)を取得。2010年4月、同年12月のグランドオープンに先立ち、JR秋葉原駅と御徒町駅間の高架下「2k540 AKI-OKA ARTISAN」内にアトリエをオープン。工芸、ファッション、アートなどの枠組みを飛び越え、新しい伝統を生み出している。
公式HP http://www.hirocoledge.com/
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