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PHOTO : The Jimmer

小島シェフが修行を積んだニースの魅力は「街でありながら、リズムがゆったりしていて、車ですぐイタリアに行けたり、山やスキー場があったりするところ」。週末には山から下りてくる農家の方で市場は賑わいをみせる。

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FACES

真夏に楽しむ、野菜たっぷりの極上フレンチ。

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2010.07.30

真夏に楽しむ、野菜たっぷりの極上フレンチ。

18歳で料理人の道に入り、24歳で渡仏。フランス時代の多くをニースで過ごし、巨匠アラン・デュカス氏に「もっとも自身の料理哲学を理解し、実践するシェフのひとり」と評される、小島景シェフ。青山のビストロ「ブノワ(BENOIT)」を経て、この春「ベージュ アラン・デュカス 東京」総料理長に就任。2010年7月7日、レストランを支える名食材の数々の生産者が集う「銀座 マルシェ・ド・アラン・デュカス」の開催を機に、厳選された素材の秘密や小島シェフの哲学についてお聞きしました。


PHOTO : Taku Kasuya
マルシェ会場で販売もされた「ながしま農園」の野菜たち。右端にあるのが、小島シェフが種を持ち込んだニースのズッキーニ「クルジェット トロンペット」。

素晴らしい素材との出会い、生産者のみなさんとのコミュニケーションは、料理人にとって大切な人間的成長にもつながると思うんです。

―先日のマルシェ、大変な盛況でしたね!
〝ありがとうございます。自分たちは、生産者や業者さんと常に一緒に仕事をしていて、彼らなしでは、何も成立しないわけです。例えば今「ひめじ」という、小さな魚を料理に使っているんですが、ほとんど築地の市場にはいってこないものを、安定供給できるように手を尽くして探してくださったりとか…。そういう、とても感動が多いコミュニケーションであり、一般の方がなかなか触れられない部分を公開するというのは、素晴らしい試みだと思います〟

―三浦の「ながしま農園」のズッキーニを購入しましたが、とてもクリーミーで美味でした。ながしま農園さんとのお付き合いはいつごろから?
〝ちょうど4年になります。フランスから帰ってきたばかりの頃、葉山でアーティチョーク畑を見たいと思い立ちまして。案内を頼んでいた友人の都合がつかなくなってしまい、急遽案内役をかってくださったのが長島さんとの出会いです。アーティチョーク畑より、その日突然にお願いして、見せていただいた長島さんの畑にちょっと感動させられて…〟

―シェフが種から渡して栽培している品種もあるとか?
〝ええ。ズッキーニもニースで使っていたのは「クルジェット トロンペット」という、先が折れ曲がった形の独特の食感を持つ品種でした。「日本に帰ったらもう使えないんだな」と思っていましたが、思いついて種を持ち帰り、長島さんに栽培してもらうことで使い続けることができました〟

―ニース独特の野菜というのは、たくさんあるんですか?
〝イタリア国境に近いピーニャという街は豆の産地で、ちょうど今頃の時期は、びっくりするくらい美味しいフレッシュな白いんげん豆が出回るんです。これは栽培に手間もかかるので、やめてしまう農家も多いなか、モナコでずっと一緒に仕事をしていたシェフのフランク・セルッティは故郷の農家に「全部買い取るからやめないでくれ」と栽培を続けさせています。その種をセルッティにもらって、ながしま農園で去年は10キロ、今年は20キロ収穫できたんですよ。今は何に使うか考えているところです〟



PHOTO : Taku Kasuya
この日の会場はベージュ アラン・デュカス 東京のルーフテラス。野菜、魚介、肉、ワインから盆栽まで(!)13のブースが選りすぐりの逸品を披露した。上:レクリューズのフランス産チーズブース、下:中国原産の希少銘柄豚「梅山豚」のとろけるような、2年熟成生ハム。

―素材を大事にすることはセルッティ氏からの教えでしょうか?
〝というよりも、仕事についてのほとんど全部を彼から教わりました。10年間一緒に働いている間、1から10まで、それこそ余計なことまで(笑)。ひとことでは言いにくいですが、彼は人間的にも素晴らしくて、厳しい反面、すごく温かい。素材についても業者さんとの付き合いや、市場や農家の人との対話をとても大事にしていて、いい素材を見つけると「Kei、このハタはすごいから、自分用に買って料理しろ!」なんて叫ぶときもありましたね〟

―セルッティ氏のもとでの修業は、自ら志願されたんですか?
〝はい。最初は断られ、3年間くらいずっと「働かせてほしい」と言い続けて実現しました。最初の5年間は彼の小さなレストランで、それこそ2人仕事の世界です。次のレストラン「ルイ・キャーンズ」では20人が動く大きな厨房で、人を使うっていうのは、人間的にも器量が大きくないといけないんだと、実感しましたね〟

―そもそも、小島シェフが料理人を目指されたきっかけとは?
〝高校を卒業する前は、大学に進学するつもりで予備校に通ったりしていました。でも、ふと勉強はそんなに好きでないのに、なぜこんなことをしているんだろうって。そんななか、柴田書店が出していた『現代フランス料理』という全7巻の雑誌を見る機会があり、ヨーロッパ帰りのシェフの話や料理の世界を垣間見て「これは凄い」と。こんなところに自分も行ってみたい、なってみたいと思ってしまった。もともと父親が外国によく行く仕事をしていたので、海外へ出てみたいという下地はあったかもしれませんね。やってみたら、厳しい世界で最初の2年間は毎日やめたいと思ってましたけれど(笑)〟

―当時も今も鎌倉にお住まいで…。
〝小学校3年生から渡仏するまでと、今現在も住んでいます。毎朝、鎌倉の市場で野菜を仕入れて厨房へ運んでいきます。この野菜がないと自分の料理は成り立たないですから、住まいも市場から徒歩圏です〟


PHOTO : Taku Kasuya
ながしま農園の野菜を手に。インタビュー中、野菜についてお聞きすると「彼らは…」と愛しむように話すシェフの姿が印象的だった。

目指しているのは、口にした瞬間の「驚き」。どの状態で、どんなふうに食べていただくのかに心を砕いています

―野菜を選んだり、料理するときのポイントがあれば教えてください。
〝選び方についてはよく質問を受けますが、まず「買って食べてみること」。経験値がものを言いますし、いろいろと食べてみて比較の対象があれば「これは、美味しい!」というのが分かります。調理についてはとにかく「鮮度」が大事。彼らは畑から抜いてしまうと、どこからも水分を得ることができない。だから、冷蔵庫にいれるときも、湿った布で包んであげるとか。一番いいのはそんな保管をする前に食べてしまうこと!〟

―なるほど。毎朝、ときには20キロ近くの野菜をご自分で仕入れられる。シェフにとって野菜はどうして特別な素材なんでしょうか?
〝フランスにいた頃、いろんなレストランで食べてみました。でも、どこにいっても野菜ってあんまり入ってない。セルッティのレストランでは、野菜だけの一皿や、存在感があるように手を加えられた野菜をみて、すごくいいなと思った。肉料理との爽やかな調和ですとか、この魚にはこの野菜でいこう、とかそういったことですね〟

―セルッティ氏のスタイルを学んできた小島シェフにとっては、野菜を扱うのは本当に自然なことなんですね。
〝特別意識している訳ではないけど、野菜ってすごく「面白い」んです。出会いっていうんですか? 市場にいって、いいものを見つけたときの感動とか。ときどき、他のレストランのシェフもお見かけしますが、皆さん同じように楽しんでらっしゃいますよ〟

―OFFタイムにはご家族のために、腕を奮ってらっしゃるんでしょうか?
〝フランス時代はそれこそ毎週のように…。今も休みの日も市場に行くんで、子どもがまだ2歳なんですけど、美味しい野菜を食べさせたいな、と。でも、子どもってなかなか野菜を食べないですよね。それでも、週に1回こういう風に野菜を食べるようになったら、何か変わるんじゃないかなって。自分が野菜を食べたくて料理しているところもありますが〟

―「ベージュ」で出される料理にも、野菜が主張されてますね。
〝以前のフランス人シェフのときは盛り付けが細かかったり、女性が喜びそうな工夫があったり…。でも自分は、なんていうか「人参があって肉」みたいなそんな感じですね。もちろん綺麗な盛り付けにはしていますが、どこで一番驚いてもらいたいかというと、食べたときに「わ、美味しい!」となる、そこのところです〟

―いわゆる高級フレンチ、で想像するより肉も魚もポーションが大きいですよね?
〝それよりも小さくすると、やりたい加熱ができなくなってしまう。焼き色をつけたあとに、低温でじっくり中まで火をいれるという調理法をとっているので、大きさにはすべて理由があります。小さく切りすぎると野菜も格好がつかなくなるというか、人参なら人参、セロリならセロリの形、そういうのが自分には必要なんです〟

―ぜひ、みなさんに驚きを感じていただきたいですね。レストランでは8月12日までサマープランを開催中です。これは、というお薦めはありますか?
〝ひとつを選ぶのは難しいですね。とにかく、来ていただいてメニューをご覧になって「これは」と思うものを頼んでみてください。料理をするリズムは、この20年間ずっと変わらずやっていますが、このスタッフで、この環境でしかできない料理というのを常に提供しています。ぜひ楽しんでいただきたいと思います〟

小島景

小島景
幼少期を鎌倉で過ごし、18歳で料理人としてのキャリアをスタート。24歳で渡仏。アラン・デュカスの右腕でもあるフランク・セルッティ氏とは10年以上共に働き、2001年からモナコの三ツ星レストラン『ルイ・キャーンズ』で3年間副料理長を務める。2008年より青山「ブノワ」料理長として活躍、2010年4月より『ベージュ アラン・デュカス 東京』総料理長として指揮をとっている。「ブノワ」時代に刊行したレシピ集『野菜で、おいしい』(インフォレスト)も好評。